ハード・バップは終わった

今週は、1950年代から60年代にかけてジャズの本流だったハードバップムーブメントを背負い、駆け抜けた男、リー・モーガン(tp)の登場です。

「ハードパッパーとは、モーガンのことだったのかも知れない」と評論家のデヴィッド・ローゼンタールは著書『ハード・バップ〜モダン・ジャズ黄金時代の光と影』(勁草書房、この本は名著です)と記しています。

ファーストレコーディングが弱冠18歳! それもかのマイルズやロリンズ、モンクにバド・パウエルといったきら星のごときジャズ・ジャイアンツが担ったBN1500番台で、なんとリーダーアルバム!!です。先週のドナルド・バードでも1500番台ではサイドメンとして参加したのみでしたから、まさに神童。そのときのアルバムタイトルがいかしてます。『リー・モーガン インディード』。「モーガン、あきれた! まったく!」といったところでしょうか。新人発掘を旨としたBNでしたが、あまりのすごさにこのタイトルをつけるしかなかったのか…。

今回紹介する傑作『キャンディ』(1957・8年録音)を出したのも19歳のときですが、すでにBNのリーダーアルバムの6枚目にあたるという早熟ぶりです。

このアルバムは、モーガンが残した30数枚のアルバムのなかで唯一のワンホーンスタイルです。モーガンのペットにソニー・クラーク!!のピアノトリオというカルテット。ここにひとつのおもしろさというか特徴があります。ハードバップは、ペット+サックスや、アルト+テナーなど2管や3管編成があたりまえでした。ハードバップの申し子のようなモーガンがそのスタイルを崩したという意味でもおもしろいですね。
しかし、19歳でワンホーンとは、よほど自信があったのでしょうね。普通、われわれがハードバップ期の盤をターンテーブルに乗せるとき、楽しみの大きな要素が、2管のバトルやチェイス、アンサンブルなどです。それがない。自分のペット1本で聴く者をとらえなければならない。それも1曲ではない、アルバム全面を緊張感やスリルをもったものにしないとダメです。舌を巻きます。
「アルバム聴いて、どうやねん」と(なぜか大阪弁で)すごまれれば、「恐れ入りました。すんまへん」というしかない大傑作になっているのですから。

曲はタイトルチューンの1曲目を。アート・テイラーのブラッシングに導かれて登場するモーガンというイントロがゾクゾクします。つやつやした音、独特の間をとり、工夫をこらしたフレーズが聴き所でしょうが、はずせないのはソニー・クラークですね。さすがです。メンバー最初のソロも抜群、裏へ回っても独特の存在感があります。最高です。クラークを聴くアルバムとしても1級品でしょう。

このアルバムはまだ、モーガンが「優等生」だったころのものです。このあとだんだん不良じみていき、ますますハードバップの色合い強まります。この吹き込みの年にモーガンはA・ブレイキーのジャズメッセンジャーズに迎え入れられます。さすがブレイキー、放ってはおけなかったのでしょう。このあたりはまた後日、ご紹介を。
 
なんとしても書いておかなければならないのは、モーガンの命が33歳で突如絶たれたということです。
1972年2月18日、厳寒のニューヨークのクラブ「スラッグス」に出演中、2ステージと3ステージの合間、これまで長く世話を焼いてくれ愛人関係にあったヘレン・モアに銃で撃たれました。即死でした。若い女性と結婚しようとしていたと言われます。
前述のローゼンタールは書きます。

 「リー・モーガンの死によって、ハード・バップは終わった」
(2011年3月8日)