泥臭くもなく、鼻にもつかず

今週は、ジョージ・ウォーリントン(1924〜1993)の『ジャズ・フォー・キャリッジ・トレイド』(プレスティッジ)から。

サックスとペットの2管にピアノ、ベース、ドラムスのリズムセクションという構成のクインテット、1956年の録音とくれば、聴く前から物知り顔の「ああ、よくあるハード・バップものね」「音もだいたい想像がつくよ」という声が聞こえてきそうです。
 
ちょっと待って、プレイバック!! 馬鹿にしないでよ〜 坊や、いったい、何を聴いてきたの〜

このアルバムには、同時期のシャープネスなマイルス・クインテットとも、黒く粘り気のあるBNの数々の盤とも違った趣があります。「上品さ」「洗練された」とでも言うような都会的な雰囲気が漂っています。

まず、アルバムタイトル。「キャリッジ・トレイドのためのジャズ」とあります。なんのこっちゃ? 「キャリッジ・トレイド」とは、馬車に乗って買い物に行くような人々という意味から転じて、富裕層、上流社会、いまでいうセレブを意味するそうです(ランダムハウス英和大辞典)。それに合わせてジャケットもジャズアルバムとしては一風変わっています。馬車に乗っているメンバーもお行儀がいい。「セレブのためのジャズ」といったところか。
 
次にジョージ・ウォーリントンその人。ウォーリントンは、バップ期の3大白人ピアニストの一人といわれます(残りはジョー・オーバニーとアル・ヘイグか)。その音色は、重量感のある低音中心で独特です。ピアノの技術よりも、メンバーをまとめ、引っ張っていく、ちょうどジャケットのように御者的存在で、このアルバムの前には、ジャッキー・マクリーンを入れて『アト・カフェ・ボフェミア』という名盤を残しています。このクインテットではマクリーンに変えてフィル・ウッズです。まだシャープさよりも温かみを重視していたころのウッズとはいえ、あのウッズを御し、このあと、C・ブラウン直系のペッターとしてBNで大活躍するドナルド・バードを御して、実にまとまったハイブロウなバンドに仕上げている手腕はたいしたものです。この点もアルバムタイトルの由来でしょうか。
 
ウォーリントンは、白人ながらこの後、アレンジ中心の白人ジャズ、いわゆるウエストコーストジャズが一世を風靡するなかでも、それにたなびかなかった、矜持あるジャズメンでした。そんなところもセレブレイトされているでしょう。泥臭くもなく、鼻にもつかず、そんな名盤です。でも、この翌年には、実家のエアコン販売を継ぐために、突如としてジャズ界から引退。80年代、フュージョン系の演奏で復帰し驚かせましたが、このころの吹き込みには、特筆すべきものはないと思います。

私としては「ファッツ・ニュー」を推しますが、いかんせんピアノトリオ演奏が長く、ウッズとバードのからみ(ここがピリッとしていいのだが)が最後の少しでオンエアしにくいかも。というわけで、B面1曲目のウッズの手になる「トゥゲザー・ウィ・ウェル」を。最初からウッズとバードが激しく交わり、いいです。(2011年2月22日)