ハズレは無いと

今週は、先週のジョージ・ウォーリントン・クインテットに加わっていたトランペッター、ドナルド・バード(1932年〜)の作品から。
ハードバップ時代の代表的なトランペッターのバードがBN(ブルーノート)に吹き込んだ『フュエゴ』(1959年10月)です。後述しますが、バードが吹き込んだ数多いBNアルバムの中でも1、2を争う傑作だと思います。バード27歳、全曲オリジナル、相方のサックスは盟友ジャッキー・マクリーン、バックにはデューク・ピアソン(p)をはじめとする傑出したリズムセクションとくれば凡作なわけがありません。

タイトルは「炎」という意味ですが、20代の若々しエネルギーが火と燃える感じの伝わってくるアルバムですね。どの曲もいいです。B面がいいアルバムだといわれていますがタイトルチューンのベースからドラムス、ピアノと盛り上げていくイントロも捨てがたい。聴きどころは、バードのロングトーンという息の長い艶のあるトランペットとそれに絡むマクリーンのアルトでしょうか、ピアソンのピアノもいいですよ.

バードは牧師の息子として育ったという経緯もあり、ゴスペルのDNAが刷り込まれていたようです。作品全体に漂うファンキーなムードはこのせいかもしれません。正式な音楽教育を受けていて、曲作りのうまさには定評があります。
BNの看板スターともいうべき存在で、ハードバップの本流、4000番台(BNにはクラシカルな10インチの5000番台から、マイルズやロリンズ、バド・パウエルなど第一世代が担った名盤ぞろいの1500番台、それに50年代から60年代にかけての本流4000番台があります。4000番台の前に8がついているのはステレオ盤です)を中心に20枚以上もリーダーアルバムを残しており、サイドメンとして加わったものも含めれば、数十枚にのぼります。私としてはちょっと出すぎじゃないのと思うのですがねぇ。それだけアルフレッド・ライオンに買われていたのでしょう。でも、4000番台のバードは何を聞いてもハズレは無いと思いますよ。

しかし、バードは70年代に入ると早々とファンクロックの方へ「転向」していまいます。出てきたころはクリフォード・ブラウンの再来かといわれましたが、全く別の道にいってしまいました。BNのスターでハードバップを代表する存在であるにもかかわらず、コアなジャズファンからあまり評価が高くないのはこのあたりに原因があるのでしょう。また、6歳年下だが、スタイリッシュでクラブ出演中に嫉妬に狂った愛人に射殺されたという劇的な最期のエピソードをもつリー・モーガンという強烈なカリスマ的ライバルがいたことも不運でした。
(2011年3月1日)